【4】木を見て森を見ず:経営の現実(前編)
長い年月を医療業界で過ごしてきた二人だったが、
医療の「経営」においてはまったくの素人だった。
業界内における知識や経験してきたことには自信があったが、
経営という新たな領域に足を踏み入れることは、
まるで未踏のジャングルに分け入るかのような感覚だった。
当初、何から手を付けるべきかすら分からず、オフィス用品の選定にも苦慮した。
家庭用インクジェットプリンターやポケットWi-Fiで業務を進める様子は、
今思えば微笑ましいエピソードだ。
「これまでの仕事は、まさに『木を見て森を見ず』状態だった」
と後に2人は語る。
“経営”という広大な“森”の中に、
こんなにも多種多様な’木’、
つまり多くの’仕事’が存在するとは思いもしなかった。
今まで見ていた’仕事’とは、ほんの自分の身の回りのことだけ…。
2人は日々の業務をこなす中で、
次第にその“森”の輪郭がぼんやりと浮かび上がり始めた。
‘仕事’の一つ一つが積み重なるたびに、
“森”の解像度が少しずつ上がっていく。
そして、
“森”の全体像がくっきりと見えてくるにつれて、
彼らは一層多くの’木々’に気付くようになり、
そのたびに頭を抱えることになるのだった。
それでも、
2人がなんとかこの難題を乗り越えることができたのは、
彼らそれぞれが持つ異なる特性があったからだった。
その特性とは、
藤田の持つ「鷹の眼」と、
東の持つ「虎の眼」であった。
(続く)