【7】経営の壁:elamaの羅針盤①
頬を撫でる風が、心地よい季節になってきた。
医療現場での豊富な業務実績が
「経営」に触れると本当に歯が立たないと再び痛感したが、
医療現場で培った、人へ注ぐ思いやりと粘り強い信念は
事業を円滑に進めるのには充分な原動力だったようだ。
コートが要らない季節の頃にはもう
elamaが組織として歩みだそうと
その手応えが感じられるほど
形が整ってきたのをはっきりと捉えられた。
しかし、
組織らしくなるにつれて
そこに姿を現したのは、さらなる課題だった。
「職員をまとめられない」
澱んだ雰囲気を切り裂いたのは
東の、鋭い第一声だった。
多くが離職した穴を埋めるために
新しいスタッフを迎え入れた。
しかし、かつてから息づく業界特有の長所は残りつつも
同時に弊害でもある、属人的な運営体質が底流を成している。
たとえば、
備品切れが起こった際
提供用食事の発注リストや
スタッフのシフト状況
来客の対応などなど
これらへの対処は
現場スタッフ個々の経験や知見に依存しがちである。
すなわち、
そこには皆んなが共通して守る「羅針盤」が存在しなかった。
「仕組みが見当たらない」
枠組み不在のままでは
elamaは組織の域には
到底達していなかったことに気づいた。
「それぞれの裁量で自由に回してきた施設を、
私たちが理想とする会社形態にしてくことができないことに気づき、
再び壁に突き当たったんですよ」
そう振り返りながら
東と藤田は口をそろえる。
2022年にelamaに変化したことで
たくさんのスタッフが入れ替わった。
と、同時に以前からのスタッフもいく人かは残った。
互いの働き方やスキル、動線共有よりも先に、
「elamaらしい仕事運びとは?」
を早急に打ち立てる必要がある、と2人は結論づけた。
東が口火を切るように提案した。
(続く)